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東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)140号 判決

東京都江戸川区松島一丁目二九番五号

原告

内山勇吉

右訴訟代理人弁護士

青柳孝夫

真部勉

東京都江戸川区平井一丁目一六番一一号

被告

江戸川税務署長 志賀美夫

右指定代理人

竹内康尋

海老沢洋

岡田攻

榑林功

清水定穂

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

被告が原告の昭和三八年分及び昭和三九年分の所得税について昭和四一年一二月一七日付でした再更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二請求原因

一  原告は、建築業を営んでいたところ、その昭和三八年分及び昭和三九年分の所得税について被告から昭和四一年一二月一七日付で再更正及び過少申告加算税賦課決定を受け、これに対して審査請求をしたが、所得金額及び税額を一部減額する裁決を得たにとどまった(以下、右裁決後の再更正及び過少申告加算税賦課決定を「本件再更正」という。)。その経過の詳細は別表一の(一)(二)記載のとおりである。

二  しかし、本件再更正には次の違法がある。

1  更正処分に対して異議申立てがされた場合には、異議申立人の権利救済のために当該処分の適否を審査すべきものであって、新たな課税処分のための調査をすることは許されない。しかるに、本件の当初更正に対する異議申立てについては、専ら当初更正の誤りを糊塗して原告に不利益な増額再更正をするために調査が行われ、その結果に基づいて異議棄却決定と同時に本件再更正がされたのであるから、かかる再更正は、異議手続における不利益変更禁止の原則に違反する。

2  また、本件の調査及び再更正は、原告の属する民主商工会の組織破壊を目的としたものであり、その本来の目的を逸脱している。

3  本件再更正は、係争両年の原告の所得金額を過大に認定している。

よって、本件再更正の取消しを求める。

第三被告の認否

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二のうち、原告が民主商工会の会員であることは認めるが、その余はすべて争う。

第四被告の主張

一  昭和三八年分について

1  原告の昭和三八年分の所得金額は、次表のとおり三三九万九〇九一円であり、本件再更正額を上まわっている。

2  右のうち争いのある売上高(原告の建売住宅の売却収入)、仕入高、外註費、労務費、経費の各科目についてそれぞれの内訳を示せば、別表二の(一)ないし(五)の被告主張額欄記載のとおりである。

二  昭和三九年分について

1  原告の昭和三九年分の所得金額は、次表のとおり七一三万八四〇九円であり、本件再更正額を上まわっている。

2  右のうち争いのある売上高、仕入高、外註費、経費の各科目についてそれぞれの内訳を示せば、別表三の(一)ないし(四)の被告主張額欄記載のとおりである。

第五原告の認否及び反論

一  被告主張の所得金額は争う。本件両年の所得の係争科目が被告主張のとおりであることは認めるが、それぞれの内訳については別表二及び三の各原告主張額欄に記載するとおりである(ただし、別表二、三の各(一)及び別表三の(二)番号10、11を除き、原告の主張額が被告主張額を下まわるものについては、被告主張額を争う趣旨ではない。)。

二  昭和三八年分について

1  別表二の(一)(売上高)番号3は、原告の昭和三八年の売上収入ではなく、原告が昭和三七年に松島不動産こと堀泰年(以下「松島不動産」という。)からの注文に基づいて建築した建物を、松島不動産が昭和三八年に太田英夫に売却したものである。

2  同番号6ないし14は、原告の昭和三八年の売上収入ではなく、原告が昭和三七年に松屋不動産こと海見勝人(以下「松島不動産」という。)からの注文に基づいて東京都江戸川区本一色二一一番地に建築した建物を、松屋不動産が昭和三八年に右各番号の売上先に売却したものである。もっとも、右売買については、原告から右買主宛に代金領収書等が発行されているが、これは、買主において直接建物の保存登記をするために必要であるとして松島不動産から求められたからであって、真実原告がそのような売買をしたわけではない(この点は後記三1、2、4についても同様である。)。

3  同番号15の差額一〇〇万円は、原告が宮本医院から出来高払方式で請負った建築工事につき昭和三七年一二月一一日にそれまでの工事分として受領したものであるから、昭和三八年の収入には属さない。被告も、当初更正の段階ではこれを認めていたのであって、訴訟の途中においてこれを翻すのは自白の撤回として許されないというべきである。

4  同番号16は、原告が昭和三七年一一月二九日に工事を完成して目的物を引き渡し、代金を受領したものであるから、昭和三八年の収入には属さない。この点についても、前同様、被告の主張は自白の撤回に当たる。

5  別表二の(二)(仕入高)番号5は、原告が昭和三八年に小田部亀之助に売却した東京都江戸川区松本町一七九番地所在の建物(別表二の(一)番号2)の敷地として地主酒井悦次から設定を受けた借地権一六・五坪分の取得費であるが、その額は坪あたり三万七〇〇〇円である。

6  同番号6は、原告が右小田部亀之助分と同時に同一土地に建築し土屋幸延に売却した建物の敷地として右地主酒井から同一単価で設定を受けた借地一七坪分の取得費である。被告は、右土屋への売却が昭和三九年であるとして昭和三九年分の仕入高(別表三の(二)番号10)に計上しているが、土屋への売却は昭和三八年であるから、昭和三八年分の仕入高に計上すべきである。

三  昭和三九年分について

1  別表三の(一)(売上高)番号4ないし7は、原告の昭和三九年の売上収入ではなく、原告が昭和三八年に松屋不動産からの注文に基づいて東京都江戸川区本一色六番地(通称ぶたや前)に建築した建物を、松屋不動産が昭和三九年に右各番号の売上先に売却したものである。

2  同番号8、9も、右同様、原告が昭和三八年に松屋不動産からの注文に基づいて東京都江戸川区松島二丁目三二番二号(旧西小松川二丁目二一一番地)に建築した建物を、松屋不動産が昭和三九年に右各番号の売上先に売却したものである。

3  同番号10は、昭和三八年分の売上収入である(前記二6参照)。なお、被告は、本訴の当初においてこれを認めていたのであるから、その主張を変更することは許されないというべきである。

4  同番号11ないし13は、原告の昭和三九年の売上収入ではなく、原告が昭和三八年に松屋不動産からの注文に基づいて東京都江戸川区松島二丁目三三番八号(旧西小松川二丁目二〇五番地)に建築した建物を、松屋不動産が昭和三九年に右各番号の売上先に売却したものである。もっとも、右建物敷地を含む土地一六八坪は、昭和三八年八月ごろ原告が地主大西重三郎から借地したものであるが、原告は、そのうち約半分の借地権をその後松屋不動産に譲渡し、松屋不動産からの注文によってその地上に右11ないし13の建物を建築し、また、残り約半分の借地権についてはこれを黒沢武らに譲渡し、同人らからの注文によってその地上に建物を建築したのである(別表三の(一)番号14ないし16が右黒沢らに対する売上である。)。

5  別表三の(二)(仕入高)番号10は、前記のとおり昭和三八年分に計上すべきものである(前記二6参照)。

第六被告の再反論

一  昭和三八年分について

1  別表二の(一)番号3に関する原告の主張は否認する。

2  同番号6ないし14が原告の昭和三八年の売上収入でないとの主張は否認する。松屋不動産は、原告自身が建築、所有する建物の売買を仲介又は代理し、買主から受領した代金を原告に渡すとともに、原告が発行した領収書等を買主に交付していたにすぎないものであって、原告に対する建物の注文主ではない。したがって、原告の売上先は、松屋不動産ではなく、被告が主張するとおりである。

3  同番号15の差額一〇〇万円を原告が昭和三七年一二月一一日に受領したことは認めるが、請負契約による収入の確定時期は、引渡しを要するものについては目的物を注文書に提供した時によるのが原則であるから、右一〇〇万円についても、工事が完成して宮本医院に引き渡された昭和三八年の収入に計上すべきである。この点に関する原処分の認定の誤りを訴訟において是正することが自白の撤回に当たらないことは、いうまでもない。

4  同番号16に関する原告の主張は否認する。

5  別表二の(二)番号5が原告主張のとおりの借地権の取得費であることは認めるが、被告主張額の算定根拠は次のとおりである(「坪単価」は原告が地主酒井悦次から借地する際に支払った権利金の坪あたりの単価、「地代月額」は原告が右借地権を取得してから地上建物を小田部亀之助に売却するまでに地主に支払った地代月額、「賃借期間」は原告が右借地をした昭和三七年四月から地上建物を小田部に売却した昭和三八年四月までの月数を指す。)。

〈1〉 取得価額

敷地面積一六・五坪に坪単価二万六〇〇〇円を乗じ四二万九〇〇〇円

〈2〉 地代月額四一〇円に賃借期間一三月を乗じ五三三〇円

〈3〉 取得費合計

右〈1〉と〈2〉を合算し四三万四三三〇円

6  同番号6に関する原告の主張は否認する(後記二2及び5参照)。

二  昭和三九年分について

1  別表三の(一)番号4ないし9に関する原告の主張は否認する。松屋不動産が原告に建物の建築を注文したものではないことは前記一2で述べたとおりである。

2  同番号10は、原告が東京都江戸川区松本町一七九番地の土地を地主酒井悦次から借地し、その地上に建築した建物を借地権とともに昭和三九年三月土屋幸延に売却した収入であるから、昭和三九年分に計上されるべきである。

3  同番号11ないし13が原告の売上収入でないとの原告の主張は、前記一2と同様の理由により否認する。右建物の所在する東京都江戸川区松島二丁目三三番八号の土地は、原告が地主大西重三郎から借地したものであり、その後に約半分の借地権を松屋不動産に譲渡したという事実はない。

4  同番号11ないし16の被告主張額は、原告の売却した建物とその借地権の代金の合計額であり、その区分は次表のとおりである。

右のうち番号11、14ないし16については実額によって借地権価格を把握することができなかったので、実額の判明している同12、13の事例から坪あたり借地権単価の平均値五万二二六二円を求め、これをそれぞれの借地面積に乗じてその借地権価格を算出した。

5  別表三の(二)番号10は、前記の土屋幸延に売却した借地権の取得費であるが、被告主張額の算出根拠は次のとおりである(「賃借期間」は原告が地主酒井悦次から借地した昭和三七年四月から地上建物を土屋に売却した昭和三九年三月までの月数を指し、他は前記一5と同様である。)。

〈1〉 取得価額

敷地面積一六・八八坪に坪単価二万六〇〇〇円を乗じ四三万八八八〇円

〈2〉 地代

地代月額四二〇円に賃借期間二四月を乗じ一万〇〇八〇円

〈3〉 取得費合計

右〈1〉と〈2〉を合算し四四万八九六〇円

6  同番号11の被告主張額は、別表三の(一)番号11ないし16の売上に対応する費用であり、原告が地主大西重三郎から借地した東京都江戸川区松島二丁目三三番八号の土地のうち右売却部分九七・六二坪(前記4の表の借地坪数合計)の借地権の取得価額二九二万八〇〇〇円、右売却部分につき要した埋立費用一二万二〇二五円、右借地権取得後地上建物の売却までに地主に支払った地代四万〇六二七円を合計したものである。

〈1〉 借地権取得価額

売却面積九七・六二坪に坪単価三万円を乗じ二九二万八六〇〇円

〈2〉 埋立料

売却面積九七・六二坪に坪あたり平均埋立料一二五〇円を乗じ一二万二〇二五円

〈3〉 地代

次表のとおり(賃貸借の始期はいずれも昭和三八年八月である。)

第七証拠

一  原告

1  甲第一号証の一ないし六、第二、第三号証の各一ないし三、第四、第五号証の各一、二、第六号証、第七号証の一ないし三、第八ないし第一三号証、第一四号証の一、二、第一五ないし第一八号証、第一九号証の一ないし八、第二〇ないし第二三号証、第二四号証の一ないし四、第二五号証の一、二、第二六ないし第二八号証、第二九号証の一ないし三、第三〇ないし第三二号証の各一、二

2  証人菅野春雄、同柏崎清、同嶋村喜四郎、同柴山一男、同塚本昭、同山岡良江、同国井シサエ、同簗瀬準治郎、同河合和子、同吉野弘二、同松田桂至、同新居田章、同藤山政枝、同小西キヨ子、同大西重三郎、同田中さき、同三田善司の各証言、原告本人尋問の結果(第一ないし第三回)

3  乙第一、第二号証、第四、第五号証の各一、二、第七号証の一ないし三、第八、第一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証、第一七、第一八、第二〇、第二一号証の各一、二、第三二、第三三号証、第四一号証、第四二号証の一ないし一三、第四七号証の三の二、同号証の四の二、同号証の五、第四八号証の二の二、同号証の三の二の成立は認める。同第二二号証の二、第四七号証の一、第四八号証の五の各官公署作成部分の成立は認め、その余の部分の成立は不知、同第四七号証の三の一及び第四八号証の二の一の各原告署名押印部分の成立は認め、その余の部分の成立は不知、その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告

1  乙第一ないし第三号証、第四、第五号証の各一、二、第六号証、第七号証の一ないし三、第八ないし第一一号証、第一二号証の一、二、第一三ないし第一六号証、第一七、第一八号証の各一、二、第一九号証、第二〇ないし第二六号証の各一、二、第二七ないし第二九号証、第三〇、第三一号証の各一ないし三、第三二ないし第四一号証、第四二号証の一ないし一三、第四三、第四四号証の各一ないし三、第四五、第四六号証、第四七号証の一、二、同号証の三、四の各一、二、同号証の五、六、第四八号証の一、同号証の二、三の各一、二、同号証の四、五

2  証人松浦幸夫、同杉浦忠雄(第一、二回)、同鈴木吉太郎、同小沢邦重、同海老沢洋、同田中正次の各証言

3  甲第八ないし第一三号証、第二五号証の一、二、第二六号証の成立は認め、その余の甲号各証の成立は不知(同第一四号証の一、二については原本の存在も不知)。

理由

一  請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二  原告は、本件再更正が専ら原告に不利益な処分をすることを目的とした調査に基づくものであって、異議手続における不利益変更禁止の原則に違反すると主張するが、本件の調査が右主張のようなものであったことを認めるに足りる証拠はない。そして、職権主義を採用している行政不服審査制度のもとにおいては、更正処分に対して異議申立てがされた場合に、右申立てを受けた処分庁が、申立人の主張する不服の理由に制限されることなく、その真実の所得について改めて調査をし、その結果が更正額を上まわるときは、異議申立てを棄却するとともに、増額再更正をすることも許されるものであり、右増額再更正が異議棄却決定と同時に行われたとしても、そのこと自体なんら異議手続における不利益変更禁止の原則に触れるものではない。

また、原告は、本件の調査及び再更正が原告の属する民主商工会の組織を破壊するために行われたものであるとも主張するが、証人柏崎清の証言及び原告本人尋問の結果(第一、三回)中右主張にそう部分は措信しがたく、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

それゆえ、本件再更正につき手続上の違法をいう原告の主張は失当である。

三  昭和三八年分の所得について

別表二の係争科目の内訳中原告の争うものについて判断する。

1  売上高(別表二の(一))

(一)  番号1

証人小沢邦重の証言により成立の真正を認める乙第三号証と同証言によれば、原告は昭和三八年中に小川徳二の住宅と工場を建築し、その代金として合計四九七万円の収入を得たことが認められ、代金の一部を値引きした旨の甲第一号証の三及び原告本人の尋問の結果(第一回)は採用することができない。

(二)  番号3

原告本人尋問の結果(第二回)により成立の真正を認める甲第二七号証(甲第一七号証は同一のもの)、証人田中正次の証言により成立の真正を認める乙第四六号証、官公署作成部分につき成立に争いがなく、その余の部分につき弁論の全趣旨により成立の真正を認める同第四七号証の一、弁論の全趣旨により成立の真正を認める同号証の二、原告の署名押印部分につき成立に争いがなく、その余の部分につき弁論の全趣旨により成立の真正を認める同号証の三の一、右証人田中、同鈴木吉太郎の各証言と弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、昭和三八年東京都江戸川区西小松川二丁目一一一六番地に建売住宅を建築し、これを不動産業者である松島不動産を通じて同年中に太田英夫に対し代金六二万五〇〇〇円で売却したことが認められる。右建物は松島不動産が原告に建築を請負わせて太田に売却したものであるとの原告本人尋問の結果(第二、三回)は採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(三)  番号5

証人杉浦忠雄の証言(第二回)により成立の真正を認める乙第三〇号証の三と同証言によれば、原告は昭和三八年中に根本万蔵所有の倉庫、工場等の工事をし、その代金として三万二九〇〇円の収入を得たことが認められる。もっとも、原告本人尋問の結果(第二回)によると、根本の所有する倉庫等のうちには不動産業者に管理させていたものがあり、これについて原告が右不動産業者を通じて工事を請負ったときは右業者の手数料として代金の五パーセントを差し引かれることになっていたかのごとくであるが、本件の右係争収入についてこの取扱いによる差し引きがされたことを確認しうる証拠はない。

(四)  番号6ないし14

成立に争いのない乙第四、第五号証の各一、二、第七号証の一ないし三、第八、第一一号証、第四二号証の七ないし一三、弁論の全趣旨により成立の真正を認める甲第一四号証の一、二(原本の存在と成立を含む。)、第一五、第一六号証、乙第四八号証の二の一(原告の署名押印部分の成立は争いがない。)、証人小沢邦重の証言により成立の真正を認める乙第六、第九、第一〇号証、前掲乙第四六号証、右証人小沢、同菅野春雄(一部)、同嶋村喜四郎、同柴山一男、同藤山政枝、同塚本昭、同山岡良江、同国井シサエ、同田中さき、同田中正次の各証言及び原告本人尋問の結果(第一ないし第三回。ただし一部)によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告と松屋不動産とは、建築業者と不動産業者という関係でかねてから仕事上のつながりがあり、親しい間柄であった。

(2) 東京都江戸川区本一色二一一番地の土地は田中さきの所有であったが、松屋不動産はこれを買い取ることについて右田中の承諾を得、昭和三七年から昭和三八年にかけて、原告が同土地に建売住宅一〇棟を建築する工事をした。そして、右工事中松屋不動産も時々建築現場に来ていた。

(3) 完成した建物は、その敷地とともに、昭和三八年中に前記各番号の売上先に売却されたが、各建物の代金額は当該番号の被告主張額欄に記載するとおりであった。この売却にあたっては、松屋不動産が買主との間の交渉や代金授受等一切を取りしきったため、買主の多くは契約当時は原告の名も知らず、松屋不動産から買い受けるものと考えていた。

(4) しかし、松屋不動産が買主から受領した建物代金は原告に渡され、場合によっては、松屋不動産が買主から右代金の支払いを受ける前に立替払いの形で原告に渡されることもあった。そして、原告が右代金を受領したときは、松屋不動産を通じて、原告から直接買主にあてた代金領収証を発行しており、また、原告から買主に対する建築見積書や工事引渡完了証明書等を発行したこともある。他方、松屋不動産においても、一部の建物については買主から仲介手数料を受領している。

以上の各事実と弁論の全趣旨を総合し、更に、不動産業者が対象物件の所有権まで取得するのは普通でないことをも考えると、右の土地付建売住宅の建築・販売は、全体としては原告と松屋不動産とが協力してこれを行ったものであるが、建物の所有関係についていえば、松屋不動産が建築主として原告に建築を請負わせたものではなく、原告が自ら建築、所有するものを松屋不動産を介して直接前記各買主に売却したものと認めるのが相当である。

原告は、右建物は松屋不動産から原告が建築を請負っただけのものにすぎず、買主に対して原告名義の代金領収証等を発行したのは買主において保存登記をするためであると主張するが、右主張に符合する甲第二号証の一ないし三、第五号証の一、二、第六号証、第一九号証の一ないし三は、その形式・体裁等に徴すると作成経過につき疑問の残ることを否定しえず、また、右領収証等が保存登記のために必要であるとの点についてもにわかに首肯しがたいところである。したがって、右書証に依拠する原告本人尋問の結果(第一ないし第三回)及びこれと同旨の前記証人菅野、同柏崎の証言もまた採用することができないものであり、他に先の認定を左右するに足りる証拠はない。

してみると、前記各番号の被告主張額は昭和三八年分の売上高に計上すべきものである。

(五)  番号15

原、被告主張額の差額一〇〇万円が昭和三七年一二月一一日に原告に支払われたものであることは当事者間に争いがなく、証人小沢邦重の証言により成立の真正を認める乙第二七号証によれば、原告は、宮本衛一から医院兼住宅の建築を請負い、昭和三八年一一月ごろこれを完成し、その工事代金として完成までに七回に分けて合計四七三万七四二〇円を受領したが、右一〇〇万円はその第一回の受領分であることが認められる。原告は、右一〇〇万円が受領の時までの工事の出来高に対するものであったと主張するが、その証拠はない。そうすると、請負の性質に照らし、右工事代金は全額が工事の完成した昭和三八年分の収入に属するものと解するのが相当である。

なお、原告は、被告が右一〇〇万円の帰属年についての主張を変えたことをもって自白の撤回に当たるとするが、もとより失当である。

(六)  番号16

証人小沢邦重の証言により成立の真正を認める乙第二八号証、証人杉浦忠雄の証言(第二回)により成立の真正を認める乙第四三号証の三によれば、原告は、細田四郎から店舗兼住宅の建築を請負い、昭和三八年二月ごろこれを完成し、その代金として完成までに二回に分けて合計九〇万円余を受領したことが認められる。したがって、右工事代金は昭和三八年分の収入に属するものである。なお、これについても自白の撤回をいう原告の主張が失当であることは、前同様である。

2  仕入高(別表二の(二))

(一)  番号2

証人杉浦忠雄の証言(第一回)により成立の真正を認める乙第二二号証の一によれば、原告の昭和三八年中における西川万次郎からの仕入額は八七万二二七四円であることが認められ、これを上まわる仕入れがあったとの原告の主張を認めうる証拠はない。

(二)  番号4

証人杉浦忠雄の証言(第二回)により成立の真正を認める乙第四四号証の三によれば、原告の昭和三八年中における有限会社山崎銘木店からの仕入額は一六万九五六〇円であることが認められ、これを上まわる仕入れがあったとの原告の主張を認めうる証拠はない。

(三)  番号5

弁論の全趣旨により成立の真正を認める乙第二六号証の一、証人小沢邦重の証言により成立の真正を認める同号証の二、証人田中正次の証言によれば、原告は、昭和三八年中に東京都江戸川区松本町一七九番地に建築した建物及びその敷地一六・五坪の借地権を小田部亀之助に売却したが、右借地権を取得するため地主酒井悦次に対し坪あたり二万六〇〇〇円、合計四二万九〇〇〇円を超えない額の権利金を支払ったことが認められ、支払権利金の単価が右の額を超えていたとの原告本人尋問の結果(第二回)は採用することができない。したがって、右四二万九〇〇〇円に、弁論の全趣旨により原告が酒井に支払ったと認められる地代五三三〇円を加算した四三万四三三〇円が、右借地権の仕入高となる。

(四)  番号6

これが昭和三九年分の仕入高に計上されるべきものであることは、後記のとおりである。

3  外註費(別表二の(三))

(一)  番号1ないし5、7、12、14、15

前掲乙第四四号証の三によれば、原告の昭和三八年中における右各番号の外註先に対する外註費はいずれも当該番号の被告主張額欄記載のとおりであることが認められ、これを上まわるとの原告の主張を認めうる証拠はない。

(二)  番号8

証人杉浦忠雄の証言(第一回)により成立の真正を認める乙第二三号証の一によれば、原告の昭和三八年中における株式会社古谷野商店に対する外註費は、取引額三三八万七六一九円から値引分五七一四円を差し引いた三三八万一九〇五円であることが認められ、これを上まわるとの原告の主張を認めうる証拠はない。

(三)  番号11

原告の昭和三八年中におけるシロ工房に対する外註費が二万二七九〇円であることは原告の自認するところであり、これを下まわるとの被告の主張を認めうる証拠はない。

(四)  番号20

原告本人尋問の結果(第三回)により成立の真正を認める甲第二八号証と右本人尋問の結果によれば、原告は昭和三八年中に有限会社大栄風呂釜製作所に対し外註費一万六四〇〇円を支払ったことが認められ、乙第四四号証の三のこれに反する部分は採用することができない。

4  労務費(別表二の(四))番号1

前掲乙第四四号証の三によれば、原告が昭和三八年一月分として支払った労務費は四六万三〇四〇円であることが認められ、これを上まわる支払いをしたとの原告の主張を認めうる証拠はない。

5  経費(別表二の(五))番号1、2、6、9、11、12

前掲乙第四四号証の三によれば、原告が昭和三八年中に右各番号の経費として支払った額はいずれも当該番号の被告主張額欄記載のとおりであることが認められ、これを上まわる支払いをしたとの原告の主張を認めうる証拠はない。

四  昭和三九年分の所得について

別表三の係争科目の内訳中原告の争うものについて判断する。

1  売上高(別表三の(一))

(一)  番号1、3

前掲乙第三〇号証の三、証人杉浦忠雄の証言(第二回)により成立の真正を認める乙第三一号証の三と右証言によれば、原告は、昭和三九年中に千葉県安房郡江見町に根本万蔵の建物を建築して六二万一四四四円の収入を得、また、同年中に同人の他の建物を修理して八万七三〇〇円の収入を得たことが認められる。右根本関係の工事につき不動産業者の手数料として代金の五パーセントを差し引かれることになっていたとの点については、先に判示したとおりである。

(二)  番号4ないし9

成立に争いのない乙第一三号証、第一七、第一八号証の各一、二、第四二号証の一ないし六、弁論の全趣旨により成立の真正を認める甲第一八号証、証人小沢邦重の証言により成立の真正を認める乙第一四ないし第一六号証、前掲乙第四六号証、右証人小沢、同菅野春雄(一部)、同簗瀬準治郎、同河合和子、同吉野弘二、同小西キヨ子、同三田善司、同田中正次の各証言及び原告本人尋問の結果(第一ないし第三回。ただし一部)によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告と松屋不動産とは前記のように昭和三七、八年中に建売住宅の建築・販売を行っていたものであるが、これに続いて、東京都江戸川区本一色六番地の三田善司所有の土地及び同区松島二丁目三二番二号(旧西小松川二丁目二一一番地)の大西松雄所有の土地につき松屋不動産が各所有者から売却方の承諾を得たうえ、昭和三八年から昭和三九年にかけて、原告が前者の土地に建売住宅四棟、後者の土地に建売住宅二棟を建築する工事をした。

(2) 完成した建物は、その敷地とともに、昭和三九年中に前記各番号の売上先に売却されたが(右前者の土地上の建物は番号4ないし7、後者の土地上の建物は番号8、9)、各建物の代金額は当該番号の被告主張額欄に記載するとおりであった。この売却にあたっては、松屋不動産が買主との間の交渉や代金の授受等一切を取りしきったため、買主は契約当時は原告の名も知らず、松屋不動産から買い受けるものと考えていた。

(3) しかし、松屋不動産が買主から受領した建物代金は原告に渡され、場合によっては、松屋不動産が買主から右代金の支払いを受ける前に立替払いの形で原告に渡されることもあった。そして、原告が右代金を受領したときは、松屋不動産を通じて、原告から直接買主にあてた代金領収証を発行しており、また、原告から買主に対する建築見積書を発行したこともある。他方、松屋不動産においても、一部の建物については買主から仲介手数料を受領している。

以上の各事実と、昭和三八年分について前述したところとを合わせ考えると、右各建物は、原告が自ら建築、所有するものを松屋不動産を介して直接前記各買主に売却したものと認めるべきであって、これに抵触する甲第三号証の一ないし三、第四号証の一、二、第一九号証の五ないし七、証人菅野春雄、同柏崎清の各証言及び原告本人尋問の結果(第一ないし第三回)は採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

してみると、前記各番号の被告主張額は昭和三九年分の売上高に計上すべきものである。

(三)  番号10

証人小沢邦重の証言により成立の真正を認める乙第二九号証、弁論の全趣旨により成立の真正を認める同第四五号証、前掲同第四六号証、証人田中正次の証言と弁論の全趣旨を総合すれば、原告は昭和三九年三月ごろ酒井悦次所有の東京都江戸川区松本町一七九番地の土地に建築した建売住宅及びその敷地一六・八八坪の借地権を土屋幸延に代金合計一六五万円で売却したことが認められ、これに反するかのごとき原告本人尋問の結果(第二回)は採用することができない。

(四)  番号11ないし16

成立に争いのない乙第二〇、第二一号証の各一、二、第四一号証、証人小沢邦重の証言により成立の真正を認める同第一九号証、証人大西重三郎、同海老沢洋の各証言により成立の真正を認める同第三四ないし第四〇号証、右証人小沢、同大西、同海老沢、同松田桂至、同新居田章の各証言と弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 原告は、昭和三八年夏ごろ大西重三郎の所有する東京都江戸川区松島二丁目三三番八号(旧西小松川二丁目二〇五番地)の土地を賃借し(この点は当事者間に争いがない。)、これを埋立整地したうえ、同土地に六棟の建売住宅を建築し、うち三棟とその敷地の借地権は昭和三九年中に松屋不動産を通じて右番号11ないし13の売上先に売却し、他の三棟とその敷地の借地権は同年中に原告自身で右番号14ないし16の売上先に売却した。なお、右売却にかかるそれぞれの借地坪数は被告の再反論二4の表記載のとおりである。

(2) 右売却の価格は、前同表の番号11、14ないし16の借地権につき実額を把握することができないが、他の建物及び借地権についてはいずれも同表記載のとおりの額であった。そこで、右実額不明の借地権の価格については、番号12、13の借地権価格と借地坪数から坪あたり借地権価格の平均値を求めてこれによってその価格を推計するほかないものというべきところ、右平均値は五万二二六二円となるので、これによって計算すると、それぞれ同表記載のとおりの額となる。

原告は、番号11ないし13につき、原告が大西から設定を受けた借地権の一部を昭和三八年中に松屋不動産に譲渡し、松屋不動産から地上建物の建築を請負っただけにすぎないと主張し、また、番号14ないし16についても、原告が残りの借地権を昭和三八年中に右各番号の黒沢武らに譲渡したうえ、同人らからの注文により右土地に建物を建築したもので、右建物分だけが昭和三九年の収入になると主張するが、これにそう甲第七号証の一ないし三、第一九号証の八、証人菅野春雄の証言及び原告本人尋問の結果(第一ないし第三回)は、前述したと同様の理由によりいずれも採用することができない。そして、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  仕入高(別表三の(二))

(一)  番号1、2、6、7

前掲乙第四四号証の三によれば、原告の昭和三九年中における右各番号の仕入先からの仕入額はいずれも当該番号の被告主張額欄記載のとおりであることが認められ、これを上まわる仕入れがあったとの原告の主張を認めうる証拠はない。

(二)  番号3

証人杉浦忠雄の証言(第一回)により成立の真正を認める乙第二四号証の二によれば、原告の昭和三九年中における株式会社古森商店からの仕入額は、取引額六〇〇万〇五四〇円から値引分九〇円を差し引いた六〇〇万〇四五〇円であることが認められ、これを上まわる仕入れがあったとの原告の主張を認めうる証拠はない。

(三)  番号10

前記のとおり、原告は東京都江戸川区松本町一七九番地所在の建物及びその敷地一六・八八坪の借地権を土屋幸延に売却したが、前掲乙第二六号証の一、証人田中正次の証言によれば、原告は右借地権を取得するために地主酒井悦次に対し坪あたり二万六〇〇〇円、合計四三万八八八〇円を超えない額の権利金を支払ったことが認められ、支払権利金の単価が右の額を超えていたとの原告本人尋問の結果(第二回)は採用することができない。そして、右借地権の売却が昭和三九年中に行われたものであることは前認定のとおりである。したがって、右四三万八八八〇円に、弁論の全趣旨により原告が酒井に支払ったと認められる地代一万〇〇八〇円を加算した四四万八九六〇円は、昭和三九年分の仕入高に計上すべきである。

(四)  番号11

前記のとおり、原告は東京都江戸川区松島二丁目三三番八号の土地を地主大西重三郎から借地し、同地上に建築した建物六棟とその敷地合計九七・六二坪の借地権を大谷通昭らに売却したが、前掲乙第四〇号証、証人大西重三郎(一部)、同海老沢洋の各証言によれば、原告は右借地権を取得するために右大西に対し坪あたり三万円、合計二九二万八六〇〇円を超えない額の権利金を支払い、また、その埋立整地のため坪あたり平均一二五〇円、合計一二万二〇二五円の費用を支出したことが認められ、支払権利金の単価が右の額を超えていたとする証人大西の証言及び原告本人尋問の結果(第二回)は採用することができない。そして、右借地権の売却が昭和三九年に行われたものであることは前認定のとおりである。したがって、右支払権利金及び埋立費用の額三〇五万〇六二五円に、前掲乙第四〇号証と弁論の全趣旨により原告が大西に支払ったと認められる地代四万〇六二七円を加算した三〇九万一二五二円は、昭和三九年分の仕入高に計上すべきものである。

3  外註費(別表三の(三))

(一)  番号1ないし3、5、7、14

前掲乙第四四号証の三によれば、原告の昭和三九年中における右各番号の外註先に対する外註費はいずれも当該番号の被告主張額欄記載のとおりであることが認められ、これを上まわるとの原告の主張を認めうる証拠はない。

(二)  番号4

証人杉浦忠雄の証言(第一回)により成立の真正を認める乙第二三号証の二によれば、原告の昭和三九年中における株式会社古谷野商店に対する外註費は、取引額二二九万四〇九五円から値引分二万三七四〇円を差し引いた二二七万〇三五五円であることが認められ、これを上まわるとの原告の主張を認めうる証拠はない。

(三)  番号6、11ないし13

原告本人尋問の結果(第三回)により成立の真正を認める甲第二九号証の一ないし三、第三〇ないし第三二号証の各一、二と右本人尋問の結果によれば、原告は昭和三九年中に右各番号の外註先に対しそれぞれ当該番号の原告主張額欄記載のとおりの額の外註費を支払ったことが認められ、乙第四四号証の三のこれに反する部分は採用することができない。

4  経費(別表三の(四))番号3、8

前掲乙第四四号証の三によれば、原告が昭和三九年中に右各番号の経費として支払った額はいずれも当該番号の被告主張額欄記載のとおりであることが認められ、これを上まわる支払いをしたとの原告の主張を認めうる証拠はない。

五  以上の認定の結果を被告主張額と対比すると、昭和三八年分については外註費が一万六四九〇円増となり、昭和三九年分については外註費が一二万九七〇〇円増となるが、右に認定した以外の当事者間に争いのないところを合わせて原告の右両年の所得金額を計算すると、いずれも本件再更正額を上まわることが明らかである。したがって、本件再更正に所得を過大に認定した違法があるということはできない。

六  よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 中根勝士 裁判官 佐藤久夫)

別表一

(一) 昭和三八年分

(二) 昭和三九年分

別表二 (昭和三八年分)

(一) 売上高

(二) 仕入高

(三) 外註費

(四) 労務費

(五) 経費

別表三 (昭和三九年分)

(一) 売上高

(二) 仕入高

(三) 外註費

(四) 経費

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